« 【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(3) | トップページ | 【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(5) »

【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(4)

27
しつこく繰り返すが、ペガー・ケースを「同性愛の問題」と規定することは、イランの政策を批判し、「同性愛(行為)者を迫害するイランを粛清せよ!」と訴えることとけっしてイコールではない。性的指向によって迫害を受ける可能性がひじょうに高い亡命者を、難民として受け入れる側にこそ同性愛差別が存在するのである。性的指向という「目に見えにくい」「センシティブな」属性ゆえの差別が。

28
同性愛難民は、国籍国においては自身の性的指向を(しかも密告という形で!)アウティングされ(*注1)、難民申請先の国では、カムアウトだけでは済まされず、「証拠」を要求される。私的領域にかかわるデリケートな属性を、当人の意思に反して暴露される恐怖と恥辱、告白させられる苦痛と屈辱、申請を却下された驚愕と絶望。自国ではひた隠しにしておいた性的指向が不本意ながら発覚し、申請先にカムアウトしても、「同性愛者である証拠がない(ペガーさんの場合)」「自国に戻っても、自分の性的指向を隠しておけば、迫害を受けることなく平穏に暮らせる(シェイダさんの場合)」(*注2)とされ、難民としての保護が受けられない。同性愛難民は、二重三重に尊厳が損なわれているのである。

(*注1):イラン刑法117条では、「同性愛行為の処刑には四人の証人の証言が必要」とされているが、イランで同性愛の処刑は(1)四人の証言、(2)四回の自白、(3)裁判官の「慣習的な方法」によって実行することができる。また、上原論文 (p10)脚注17において、在米イラン人権問題専門家グダーズ・エグデダーリ氏の「シャリーア(表記ママ)法は人々の日常生活に大きな影響力をもっており、特に都市を離れ地方に行けば行くほどその傾向は強く、家族によって当局に密告される可能性もある」という発言を引用している。

(*注2)シェイダさんの判決の不条理さについては、Daily Bullshit『死ねというのと同じ』を参照のこと。

29
では、各国で難民申請を受ける担当窓口にLGBT当事者の審査官を配置させれば、申請者が間違いなく同性愛者であることを見抜けるのか。答えはイエスでもあり、ノーでもある。自らのクィア・コンシャスネス(あえて「性的指向」という表現を採用せず)を職能として活かせるほどのLGBT当事者であれば、非当事者を当事者と間違えることはまずないと考えられるが(同性愛者を騙った虚偽の難民申請に対するセイフティ・ガードにはなりうるか?)、逆に当事者の当事者性を否定・否認するおそれも十分に考えられる。

30
卑近な例からその根拠を述べると、わたしの身近にも、「あのひとは“本当の”レズビアンではない」などと、当事者の性的指向を第三者が勝手に判定してみせる言説がしばしば聞かれる。しかも判定者のレズビアン・コンシャスネスが高ければ高いほど、レズビアン定義のハードルがどんどん高くなり、その定義から排斥され周辺化されるレズビアンが多くなっていく(アイデンティティ・ポリティクスが隘路に入り込んでいく)。

31
人権団体Human Rights Watch(HRW)のLGBT人権プロジェクト責任者であるスコット・ロング氏は、「私たちはLGBTイラン人たちを、信頼できる事実でサポートしていきたいと思っている」「事実こそがイランにおける人権侵害と戦う武器」「私たちは事実を見極め、我々の活動をどこに向けていくべきかを話し合わなければならない」と語り、事実を把握することの重要性を説く。それは確かにそうだ。そこに反論の余地は一切ない。

32
そして、各国の難民受け入れ当局もまた、迫害国と被迫害者に関する事実を把握することの重要性を充分すぎるほど認識しているはずだし、その認識のもとに、申請者が「同性愛者である証拠」を事実として確認すべく職務を遂行している。彼らが慎重な判断を行なうためにこのような姿勢をとっているのなら、非難される筋合いはひとつもない。

33
だが、「事実」とはいったいなにか。「誰から見ても明らかなもの」と定義するのであれば、「セクシュアリティという個人の内的事実」は、「事実」とはみなされにくい。それにしてもおかしな話である。異性愛者であることには証拠は求められないが、同性愛者であることには証拠が必要だ。異性愛者であるという内的事実は他者(非異性愛者)の承認を必要としないが、同性愛者であるという内的事実は、他者(異性愛者)の承認を得なければ「事実」として承認されない。これが同性愛差別問題でなくて、いったいなんであろうか。

34
また、ひじょうに皮肉なことに、国籍国では当局に通報されないよう、公にはクローゼットとして生活していた同性愛者が、難民申請先では「同性愛者である証拠がない(国籍国で申請者が同性愛者であることを確認されていない)」と言われる。証拠が残らないよう暮らしていたのだから、そんなのあったり前じゃないか! 

|

« 【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(3) | トップページ | 【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(5) »

よみもの/学習用メモ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/453404/7832087

この記事へのトラックバック一覧です: 【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(4):

« 【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(3) | トップページ | 【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(5) »