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【ミヤマ】ペガー・ケースは「同性愛問題」である(1)


性的指向にかかわるヘイトクライムや、今回のペガー・ケースのように同性愛迫害国からの難民申請案件が話題になると、きまって「同性を愛することは罪なのか?」というヒロイックな嘆きの表現が聞かれる。わたしはこの手の問いにはうんざりしている。


まず、誰に向かって問いかけているかが不明だからだ。電車内で偶然居合わせただけの見知らぬだれかが携帯電話でしゃべっているのを強制的に聞かされる不快さに通じる(電話を手に持っていなければただの独り言にしか聞こえない不快感)。次に、この問いがなんらかの回答を求めているようには思えない(求めているとしたら回答ではなく質問者への同意や共感だろう。反論を予想しているとも、それに対する論理的に有効なレスポンスが用意されているとも思えない)。つまり、疑問形をとった独り言にしか聞こえない。自らの嘆きの声に陶酔するような自己完結性を帯びている。情緒的発言を口にすることで自らを慰撫しているにすぎない、閉じた疑問だ。だから、「同性を愛することは罪なのか?」という問いは無意味である。


もうこの手の常套表現は聞き飽きたから、そろそろ誰かなんかほかのこと言ってくれないかな、と他力本願してもなかなか出てこないので(わたしが知らないだけかもしれないが)、自分で違う言説を起こすことにした。


また、このテキストを書くに至った動機には、ペガー・ケースを端緒としてわたしを憤らせている言説がある。「ペガー・ケースは同性愛問題ではない。セクシュアリティやホモフォビアとは関係ない」とする<声>だ。


わたしは現在、イランに対して感じる怒りよりも、ペガー・ケースと「同性愛問題」を切り離させようと言論圧力をかけてくる<声>に対する怒りのほうが強い。この怒りを正当に表現したい。押さえつけられたくもないし、わたしの思考を強制停止されることによって、この怒りをゆがめられたくもない。怒りの底にあるものをきちんと見つめたい。


<声>よ。おまえに問いたい。おまえはわたしに向かって吐いた「ペガーさんの件は『同性愛問題』ではまったくない」という言葉を、ペガーさん本人に向かって直接言えるのか? わたしは言えない。言いたくない。だからわたしはわたしで、ペガーさんに向けたメッセージとしてこのテキストをしたためることにした。


話を少し戻す。正直に告白すれば、わたしは日本で初めて同性愛者として難民申請したイラン人男性シェイダさんのケースは、オンタイムではその詳細をあまり知らなかった。しかし、今回ペガー・ケースにコミットして、あらためてシェイダさんの裁判事例について参照したが、「自分がかれらの国に生まれていたら、間違いなく死刑か国外逃亡(亡命)だ」と思ったのが、わたしの原点。


「それがどうしたの? 原点だからなに?」と反射的につぶやいた察しの悪いひとは、時間の無駄なのでこの先は読まなくて結構。わたしは当事者意識、当事者主権の観点に立って思考を巡らせているので、当事者意識に欠けるひとたち、あるいは当事者意識を排除しなければ話を先にすすめられないと考えているひとたち(いずれも非当事者とは限らない)の論考には、わたしの考察はまったくなんの役にも立たないであろうことを、あらかじめアナウンスしておく。


イランでは、ホメイニ師による1979年のイラン・イスラム革命によって、民主化を推進していた王政が崩壊して以来、イスラム教聖職者による支配体制がつづいている。イランの刑法は、現体制が国教とするイスラム教シーア派の立場からイスラム法(シャーリア)を解釈して制定されたもの。イラン政府が同性愛行為を刑法で禁じる根拠はイスラム法であり、そこからさらに遡るべき根拠はない。

10(蛇足1)
そもそも、いかなる法にもその正当性・無矛盾性を説明できる最終的絶対的根拠などない(ミュンヒハウゼンのトリレンマ参照)。殺人が罪に問われるのは、殺人罪が刑法に制定されているからだ。殺人そのものを絶対悪とする決め手となる根拠はどこにもない。

11(蛇足2)
冒頭に挙げた不毛な質問にあえて答えるとすると、同性愛が罪に問われるのは、刑法上同性愛を犯罪として罰する制度をもつ国家体制においてのみだ。だからそういう国家体制に対して涙目で「同性を愛することは罪ですか……?」と問えば、「当たり前だろがっ!」で終了。「それがルール(原理)だからだ」という以外に根拠はない。根拠を遡って問うても、遅かれ早かれ「悪いから悪いのだ」「罪だから罪なのだ」というトートロジーにハマりこむのがオチである。

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